テニスコートでの暗殺計画 第4章 捜索

「いないな」
 公園をぐるっと回って探し回ったものの、晴彦を見つけられなかったイサムたちはテニスコートへと戻ってきた。
「晴彦からのメールでは怪しい人物を尾行をしているはずなんだがな」
 イサムは数分前に晴彦からきたメールの文面を見ながらそう言う。探している最中に尾行相手に会うかもしれないため、そのワードは使わないようにして晴彦を探していたのだが、一向に晴彦の姿は見えなかった。それだけでなく、尾行しているという怪しい人物も見つからなかった。
「電話も繋がらないわね」
 梨奈はスマホで晴彦に電話をかけるが、晴彦は電話に出ない。どこかで電話を落としたのだろうか。
「でも、公園の中は全部探したのです。それでも見つからないなんて、明らかに怪しすぎませんか?」
「確かにそうね」
 詩織の言う通りだ。もしかしたら、公園の外にまで出て行ったのかもしれないが、メールが来た時間を考えると、そこまで遠くには行っていないはずだ。
「考えられる可能性は、尾行の最中に何かの事件に巻き込まれたか。それとも、攫われたかのどちらかだね」
「晴彦を攫うとか悪趣味すぎるけれど、そう考えた方がいいわね。考えすぎかもしれないけれど、一応ね」
 その予感が思い過ごしであることを願いながら、イサム達は晴彦の捜索を救出へと切り替えていき、この公園内のどこかにいるであろう晴彦の捜索にあたることにした。
「さて、どうやって晴彦の居場所を特定すればいいのかしらね」
 範囲を広げて捜索するにも人員が少なすぎる。この広い公園内で人を探すというのに、たった三人で行わなければならないのだから。闇雲に無策で公園内を探しても見つかりはしないだろう。梨奈がそう考えていると、詩織が手を上げて言う。
「私の出番でしょうか?」
「……そうね。他に手もないわけなのよね。詩織、頼むわよ」
 梨奈は詩織が何をしようとしているのかを感じ取り、それが今できる最善の方法であると判断して任せる。
「はい、私に任せてくださいなのです」
 詩織は梨奈に頼ってもらえたことが嬉しかったようで、自信満々にメガネの奥の瞳を光らせてそう言うと、すぐに持ってきたカバンの中から自前のノートパソコンを取り出す。
「カバンが重そうと思ったら、それを入れていたのね」
「はいなのです。いつもどこに行く時も持ってきているのです」
「今回は持ってきてくれて助かったよ」
 そしてノートパソコンを日陰のベンチに置き、開けて起動させる。そのまま慣れた手つきで自前の無線LANを介してネットに繋ぎ、キーボードを叩いて臨海副都心公園のセキュリティシステムにハッキングをかける。
「ふふふ。私にかかればこの程度のセキュリティはセキュリティとは言わないのですよ。こんな古びたセキュリティ、突破する方法なんていくらでもあるのですよ」
 詩織は怪しく笑いながらパソコンに向かってキーボードを叩いていく。詩織にかかれば、これくらいの民間のセキュリティなど、認知されることなく突破してシステムに潜り込むことは造作もない。ものの十分ほどでハッキングが成功したようで、詩織はパソコン上にハッキングした映像を映し出していく。
「どう?」
 梨奈が隣から詩織に話しかけ、様子を聞いてみる。
「どうやら、公園の外には出ていないみたいなのです。公園の出入り口にあるカメラを見てみましたが、そのどれにも映っていないのです」
 詩織は公園内に仕掛けられている監視カメラの映像をハッキングしてパソコンの画面に映してみせてそう言う。確かに、言われた通りどの映像にも春いこの姿は映っていなかった。
「それじゃあ、他の防犯カメラも見てくれる?」
「わかったのです」
 その後も目にも留まらぬ速さでその他の全ての防犯カメラの映像もハッキングしていき、その一つ一つに記録された映像を見ていく。
「映ってないな」
「はいなのです」
 イサムも詩織の隣からパソコンの画面を覗き込み、防犯カメラの映像を見る。公園内の防犯カメラに映っていないとなると、建物の中にいるとかだろうか。
「建物の中はどうだろうか?」
「そこにもいないようなのです」
「そうか……」
 外にもおらず、建物の中にもいない。となると残された場所はどこだ。
「姿は見えないが、確かに公園内にいると思える場所ってあるか?」
「ちょっと待ってくださいなのです……あったのです。ここなのです」
 そう言って詩織が指差した場所は、公園内Aブロックの資材倉庫だった。確かにここなら防犯カメラも設置されていない。しかも、入り口が防犯カメラの死角となっており、誰かが出入りをしてもわからない。
「資材倉庫か!」
「さっき前を通り過ぎたところね」
 梨奈もその場所を確認し、急いで晴彦の救出に向かう。
「それじゃあ、そこに行くわよ」
「はいなのです!」
「あぁ!」
 晴彦が無事でいてくれることを全員が願いながら、走って倉庫へと向かった。